PBMの会の主要メンバー3名で、9月5日の『マジカルミライ2015』、初音ミクコンサートに行ってきました。「曲作りに必要なもの」の後編はいったん後回しにして、そのレポートをお届けします。筆者ことkouryuはPBMの会では作曲技術を担当しているわけですが、今回はむしろ本業の物書き、文章系創作者(自称)の視点から書かせていただきます。
9月5日、午後5時半。長い列に並んで入場した武道館で見たのは、当たり前といえば当たり前ですが「普通のコンサートとは違う」光景でした。
仮設の舞台上には噂に聞くディラッドボード、アリーナ席後方には音響機器のみならずミク制御用と思われる大量のコンピュータがずらりと並び、良くも悪くも違和感を醸し出しています。さらに舞台脇のスクリーンではクリプトンやその他のボカロ関係の宣伝CMが流れ、「ああ、やっぱりバーチャルアイドルのコンサートなんだな」という感じでした。
やがて定刻になると会場が暗くなり、会場の皆が一斉に立ち上がってサイリウムを振り始めます。「よく教育されているなあ」と思いつつ、とりあえず自分もサイリウムを振っているうちに耳に飛び込んできたのは名曲『Tell your world』。同時にディラッドボードに初音ミクの姿が浮かび上がり、会場のボルテージは一気に上昇します。
「なるほど、最初に誰もが知っている定番曲を持ってきて会場を一体化させるのはアイドルコンサートとかと一緒だね。ひねりはないけど演出としては悪くない」
などと考えつつ、見ていたのですが。
が。
そのまま二曲目、三曲目、四曲目とプログラムが進むうちに感じたのは熱狂ではなく、違和感でした。
「何これ?」
ディラッドボード上でミクが踊り、跳ねる。脇のバンドメンバーのリアル演奏の楽器の音と共に、スピーカーからミクの声が響きます。確かにバーチャルアイドル・初音ミクが「科学の限界を超えて」リアルに降臨したかのようです。
ですが、おそらくそれ故に思ってしまいました。
「別に、これなら人間のアイドルでもいいじゃないか」
…………。
…………。
…………。
書き遅れましたが筆者は初音ミクのコンサートは今回が初めてで、過去の映像をニュースや動画で多少見ていたのと、あとはkanikanさんからあれこれ聞いていた以外は大した前知識無しでの参加です。そして少なくともコンサートの前三分の一に関しては、筆者が無意識に抱いていた「バーチャルアイドルのコンサート」への期待をきれいに打ち砕くものでした。
いや、技術的にすごいことをやっているのはわかります。
というか、二次元画像をあれだけうまく立体的に見せ、さらにその中身であるいわば「電子人形」を違和感がないレベルで人の動きに似せて操るのに、想像を絶する手間暇と苦労があるのは実感ベースでわかります。
でも、結局やっているのは「人間の真似」?
それなら人間でいいじゃないか。
そう、人間のように踊って、人間のように歌って、人間と完全に同じ土俵で勝負するなら、長丁場のなかであれこれ起伏を設け、演出を考えて全体を構成する「普通のアイドル」のコンサートの方が格上だ。(加えて当然、「ナマモノならではの迫力」もある)
人間のマガイモノが人間を真似ても、所詮は劣化コピーにしかならない。人外を主人公に据えるなら、人外ならではの在り方、見せ方、魅せ方というものがあるだろう?
いや人外オリジナルとまでは言わない、たとえばMV(ミュージック・ビデオ)というものがある。あれでやっているようなイメージ中心の謎演出をこの舞台でリアルタイムで見せたらどう? まさに「今宵一晩限りの夢舞台」として!
とまあ、好き勝手ばかり言いましたが、おそらく本来、このコンサートは「架空の歌姫、共同幻想の象徴たる初音ミクが現実(リアル)に降臨した!」という事実自体に熱狂し仲間との一体感に酔いしれることができる人たち、つまりはファンに捧げられた祭りの場なのでしょう。それはそれでまったく問題はないのですが、しかし内心でそこを単なる通過点と見てその先を求めていた筆者にとっては、前述のようにいろいろと物足りない印象がありました。ただし中盤から後半にかけての幾つかの曲目、具体的には『ロミオとシンデレラ』あたりからはディラッドボードの上部に掲げられたスクリーンの映像とのコラボを始めて、そこからは割と楽しく見られました。「悪くないけど、自分だったら映像の下半分をディラッドボードの背後に入れて2D/3Dのコラボを狙うよなあ。あ、でも武道館だと三階席まであるから角度的に無理があるか」「歌詞が聞き取れないなあ(注:場所が右側スピーカーの前で、楽器の音にミクの声がかき消されがちでした。位置取り重要です)、やっぱり画面に表示してもらったほうがいいなあ。歌詞が踊り出してディラッドボードに飛び込んでミクと遊ぶとか面白そうだなあ」などなど、妄想を膨らませながらですが。
このコンサートの題名は『マジカルミライ』ですが、文章媒体(主に小説)には「魔術的リアリズム」という言葉があります。作品世界に現実世界にはない架空の法則を放り込み、それをご都合主義抜きで厳密に運用し作品世界内で展開することで生まれる一種異様な迫真性、架空のリアリティのことです。
「本物(リアル)ではないが独自のリアリティがある」
個人的に初音ミクが、というよりバーチャルアイドルが目指すべき当面の領域はここではないかと思っています。残念ながら今回のコンサートはマジカルなリアリズムに満ちたミライを、少なくとも筆者には見せてはくれませんでした。しかし、そうなる可能性もまた十分に見ることができました。ファンが初音ミクを応援し続ける限り(そして開発を続けられるだけの売り上げを出し続ける限り)、いずれは技術の進歩と演出の工夫がこのミライの扉を開いてくれることでしょう。
そしてその時が、初音ミクというバーチャルアイドルが「これまで存在したことのない新たなジャンルの総合デジタルエンターテインメント」への昇華を遂げ、一般層にも広く認知され評価される時でもあるのだろうと、そんな風に思います。
(終)
[以下、余談です]
演出における筆者の好みは「虚実、真贋の定かならぬもの」で、アニメだと『カレイドスター』や『マジカルエミ』がお気に入りと言えば、わかる人にはわかっていただけると思います。プロレスなんかもこの範疇に入ります。ちなみにバーチャルアイドルとしてよく言及されるシャロン・アップル(『マクロス・プラス』)は筆者に言わせれば逆効果の無駄演出が多くて不可(あとAIが人に惚れるな!)。
魔術的リアリズムについては、『ジョジョの奇妙な冒険』の第三部について書かれたある漫画評が、読んだことのある人にはわかりやすいと思います。
「これはこれで面白いが、第一部・第二部に見られた魔術的リアリズムが失われつつあるのが残念だ」
(注:波紋=「架空のリアル」。スタンドになると一芸ネタのご都合主義の産物)
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