2015年4月19日日曜日

「koryuの補足メモ帳」 第三回 ようやく音楽ネタの話

PBMの会」音楽技術担当のkouryuです。今回は当初の予定に戻って音楽ネタの話をお送りします。
 PBMの会では作曲入門の動画を製作していますが、曲作りを学ぶ方法論は一つだけではないわけで、ちょっと違った方向からの曲作りへのアプローチについて紹介します。
[マンガに学ぶクラシック作曲入門(?)]
●クラシックの勧め
 クラシック音楽というと、固いイメージを感じる人が多いと思います。つい正装して演奏会に行かなければならないような。クラシックというのは「古典」や「格式」を意味する言葉なのである意味それも当然なのですが、でも初心者が作曲を始めようという場合は、一度はクラシックに目を向けてみることをお勧めします。
 なぜか? というと理由は簡単で、
「教育用の教材が一番整っているから」
これに尽きます。
 ある文化ジャンルが世間に広まるには天才の存在が不可欠という説がありますが、クラシックというか西洋音楽の基礎は1700年代前半にバッハという天才が確立し、さらにそれに続く形で1700年代後半にモーツァルト、ベートーベンその他の怪物どもを大量に輩出したことで市民レベルにまで広がりを見せました。創生期に手塚治虫という正真正銘のバケモノが存在した日本のマンガが、さらに藤子不二雄や横山光輝やその他多数の「独力で一つのジャンルを切り開ける」面々の手によって世界でも稀な発達(※)を遂げて、その余波でアニメまで流行らせたのと同じ現象が起きたと思えばいいでしょう。
 そして、市民レベルにまで広まった文化が衰退せずに続く条件はただ一つ。
「高レベルの新作を生み出せる秀才を補充するために、大量の新規参入者を確保する」
 要するに、間口が広いことなのですね。マンガの場合はとにかく周囲に見本が山ほどあることに加えて教本も講座も専門学校まで存在し、さらに発表の場としての同人市場も広く商業の門戸も常に開いているという形でそれを保証しています。
 ではクラシックはどうかというと……世紀単位で続いた成果として、本当の入門者用の曲から「そこそこ難しい曲」まで、幅広く練習曲が揃っています(つまり音楽教室に通わないでも独学で何とかできる可能性があります)。そして易しく弾きやすい曲というのは、構造が簡単で仕組みを理解しやすい曲でもあるのです。
※:ちなみに現在でも世界の大半は「マンガは子供の読み物。大人が見るもんじゃない」です。日本は天才が居たが故の異端進化
●練習曲の勧め
 回りくどい説明になりましたが、そんなわけで易しく簡単な曲が揃ったクラシックの初歩の練習曲集は、作曲初心者の方にとっての「第一目標」の宝庫になります。試しに8~16小節ぐらいの曲を幾つかDTMソフトに打ち込んで聞いてみて、「このぐらいの曲が作れればいいんだな」と思えたらそれが第一歩だと思って下さい。
 と、このように説明すると、「俺が作りたい曲はこんな初歩の代物じゃねえ! もっとちゃんとしたものをやろせろ!」的なことを叫ぶ人がいるのですが、それは実は「俺は絵が描けねえけど××みたいなマンガを描きたいんだ! 描き方を教えろ!」と言うのと同レベルの主張だったりします。そう、作りたい作品(曲)の漠然としたイメージがあっても、それを具体化する方法論を持たないのが初心者です。とにかく何か一つ曲作りの方法論を模倣し理解し身につければ、その視点から高度な曲が「何をやっているのか」を理解できるようになり、さらにどの部分をどうパクれば自分の曲に応用できるかが見えてきます。しかし基礎がなければ……そう、人体のデッサンができない人には、マンガの登場人物を動かすどころかまともに模倣することすらできません。ジャンルを問わず、既存の技術を盗みとるためには最低限の基礎能力と知識が必須なのです。
 というわけで。
「第一歩目は必ず地道に」(注:才能の無い人限定)
 まずは練習曲から始めましょう。
●具体的には?
 具体的な対象ですが、ピアノだと「バイエル」という初心者用の王道の教本があるので、奇をてらわずにこれを見るのがお勧めです。インターネットで検索しても何曲かの楽譜がひっかかりますが、楽譜の出版業界はコピーが出回るせいで常に不況に喘いでいます。できれば業界へのお布施のつもりで、一冊ぐらいはきちんと購入してあげることをお勧めします。
 曲ではなくあくまでも「歌」に拘りたい人には、PBMの会は童謡の利用を推奨しています。小学校の教科書を引っ張り出すか、唱歌集を入手しましょう。童謡というと馬鹿にする人もいますが、例えば『赤とんぼ』の「夕焼け『小焼けの』」の部分のように、単純かつ綺麗で参考になるフレーズは注意してみれば山ほどあります。『通りゃんせ』を聞いて何か嫌な予感に襲われた人は多いでしょう。その気になれば高度な曲を簡単に作れる一流の作曲家たちが「音楽未学習の子供でも歌えて、しかも耳に残るフレーズを」という超難題に挑んだ結果なので、むしろ表面的な技巧に凝っただけのそこらの歌謡曲よりも遙かに本質的なノウハウが詰まっています。「ここがいい」と思った部分があれば、そこが「どんな音符がどうつながっているか(どう変化しているか)」を具体的に確認して自分で再現し、例えば別の歌詞を付けてみたりちょっとリズムを変えてみたりして、「自分のフレーズ」に作り替えましょう。それが山ほどたまってくれば、その組み合わせで曲が作れるようになる……かもしれません。
 頑張って下さい。